全知全能の神・AIにすがる人たち
そもそもプログラミング言語とはなんぞや?
コンピューターに通じる『コンピューター語』である。
外国語でないと外人さんと意思疎通できないのと全く同じ。作りたいWebサイトの広さはこう、間取りはこう、室内デザインはこう、外観はこう、とコンピューター語で直接指示できる。これをコツコツと、慣れない言語を少しずつ理解し、壁にぶち当たり、数時間かけて乗り越え、また壁にぶち当たりを繰り返しながらルールや意味や役割、使い方を学んでいく。のだが、驚いたのは「わからないんでAIに書いてもらいました!テハッ☆」みたいな輩が多…というか半数以上を占めていた。
一体なんのために訓練校に来たのか?
ここはプログラミングの基礎を習う場である。まさにそのAIを使いこなすための、そしてAIが正しく記述できなかったプログラミングコードの補正を行うための技術をここに学びに来ているのだ。それを「AIに解いてもらった方が早いんで!」と丸投げしている人だらけでゾッとしてしまった。そして日に日に「なんか知らんけどAIにやってもらってこんなサイト作れちゃいました!」「あらやだ便利!アタシにもやり方教えて♪」的な人が増えていった。私はただ「あぁ…あぁ…」と山火事を前に丸腰で為す術がない人みたいになっていた。
そもそもAIとは?
サイト制作をAIに任せてわからないことをAIに聞く。そのサイトは100%完成しているし回答は100%正しいと思っている人が世の中こんなにいるのかと愕然とした。お年寄り勢は「あらやだすごい便利!」と丸呑みしていたし、若者は「最新AIを使いこなしているオレ達ヤング世代、ナウいっしょ?」とドヤ顔が半端なかった。そして中途半端な30代も「アタシタチもまだまだ全然若いし使いこなせてるんでー!」と必死にAIにしがみついていた。恐ろしい…こういうことにならないよう基礎を学びに来ているのだがそうか、そもそも学びの機会を得ることより失業給付金をもらうためになんとなくこの訓練校に通っている人も多いからネチネチ難解な基礎をやるより最先端のAIを駆使してスパーン!やってエンターキーをッタァーーン!やる自分すごいやん?仕事デキるやん素敵やん?ということか。斜め読みでゴールにショートカットしているつもりなんだろうが危険すぎる。AIとはネットに転がっている情報を瞬時に集め、「これが真実に近い"大多数"っス!」と提示してくれるだけの存在にすぎない。文字や描画は光速だし情報収集能力も一瞬で世界を何周もしてくれるスーパーマンだが、その前に知っておかなくてはならない基本中の基本として"AIは間違う"のだ。そこに気付けるのは今のところ人間の仕事だし、修正するのも人間の仕事。そのために基礎を習うのである。
実際に体験したことをお話ししよう。
なんか知らんけどAIってすごいらしいぞ!と世の中がチラホラ騒ぎ出した頃、月々数万円をAIに課金してバリバリ使いこなしているという人と仕事したことがある。彼は我々のような哀れなアナログ原始人に最新テクノロジーがどんだけ素晴らしくてどんだけ腹筋割れてるかデモンストレーションしてくれたのだが、渡されたキーワードをもとにAIが一瞬で資料を作り上げる様を見て体が「の」の字にのけ反るほど驚いた。イラストも段組みも文章も完璧で説得力もあり世の中こんなに便利になったのかと感嘆した。そんな彼がAIを駆使して作ってきたというプレゼン資料、普通に間違っていた。おや?俺が提出していた資料の史実ではなく有名な俗説が堂々と載っているぞ?あぁ彼は俺の資料を読まずにAIに新規で丸っと投げたんだな。お金も掛けてるしAIを使いたいAIを信じたい気持ちはわかるがこれ公式な場で発表されるプレゼン資料だから訂正しなくては…と思ったが彼は喝采を浴びる優秀な舎弟であるAIの評判にゴキゲンでドヤリ散らかしていたので私は何も言わずにその場を去った。なんだとこの昭和野郎、詳しくは知らんけど令和のAIが全面的に正しいに決まってるだろうがと言われたらいろんな意味で泣いてしまいそうだったからだ。
彼は「AIでやれば一瞬なんで」が口癖でスケジュールの立て方もそれに準拠していたがいつも『AIの文章が正しいか考証する時間』が抜けていたので危険だった。ある意味産地直送。AIが作ったものを何も確認せずそのままポーン!と出してよっしゃミッション達成ー!みたいな感じ。
こんな人あなたの周りにもいませんか?
たしかにAIの仕事は速くてクオリティも高いけど人間が内容をチェックすることは必要。AIが真実と正解を瞬時に教えてくれる神様だと勘違いしている人がたくさんいるけどそうじゃない。今のところAIとは"仕事がめっちゃ速くて気の利く新入社員"ってだけです。彼の仕事を高めるためには優秀な上司であるあなたの経験とサポートが必要なのです。
全部<div>で囲めばいいんでしょ?
「Webサイト」というものを家にたとえるとその新築工事における基礎打ちや、柱や屋根の工事を担当しているのがHTMLというプログラミング言語で、正しくはマークアップ言語という。たとえば、
<b>こんにちは!</b>
と書くと、
こんにちは!
と太字になる。「こんにちは!」をbタグと呼ばれるカッコ付きのもので囲み「囲まれた文字をbold=太字にしなさい」という指示を出しているからだ。なんらかの変化をもたらしたい箇所にタグで印付け…英語で言うと"マークアップ"して「ココからココまでをこうしてね」と指示を出す言語、それがHTMLである。そのようなタグが無数にありそれぞれ意味を持つのだがその辺の学習をAIでスッ飛ばしている人達は全く理解していないので「これ全部divでいいんじゃね?」とか「とりあえずdivで囲めばいいんじゃね?」とか言ってしまう。divタグ=<div>はdivisionを縮めたもので意味は「分割・区分」。タグで囲んだ部分を区分として分けてくれる便利なタグで、「このdivで囲んだ部屋の色は赤に。別のdivで囲んだ部屋の色は青に」ということができる。が、部屋を小分けするタグはdiv以外にも「子供部屋タグ」とか「リビングタグ」的なやつがちゃんと存在するのにみんなdivを使って「部屋1」「部屋2」としていた。部屋の色はどちらも同じだけど、その部屋が何部屋なのか来客に正しく伝える役目がタグにはあるんですよと何人かに教えたが、
「見た目変わらないからいいじゃん。それに今SEOやっても意味ないらしいよ?」
と暖簾に腕押し+意識の外からの攻撃を受け私は諦めた。何を言っているんだこの人は。日本語で話しかけたらスワヒリ語で返された気分だ。基礎が抜けて何から何まで間違っているが仕方ない。それでもAIを使えばすぐにクオリティの高いサイトが作れるし、バズれば検索順位も上がるだろう。そうなれば多少の欠陥も影響を及ぼさないだろうから是非そこを目指してほしい。
ちなみにSEOとはSearch Engine Optimizationの略で『検索エンジン最適化』のこと。
たとえば「夕飯の献立」とネット検索した場合トップに出てくるサイトと下の方に埋もれているサイトがある。あの順位はどうやって決められているかというとGoogleさんとこの検索エンジンから派遣されたグーグルクローラーと呼ばれるロボットが文字通りインターネットの波の中をクロールしながら泳ぎ、各サイトに「お邪魔しまーす!」とやってきて「ほぉ~これは見事な吹き抜けですなぁ~」と『渡辺篤史の建もの探訪』のようにサイト内を採点しGoogleに持ち帰り高得点サイトから順に上位表示する、という仕組みになっている。もちろん上位の方が人目につきやすく訪問者が多くなるのでサイト運営者はそこを目指すわけだが、そのためにもウチがどんだけ素晴らしい建物でどんだけ良質な室内なのかクローラーさんがわかりやすく理解できるよう造りを最適化して気持ち良く採点・お帰りいただきGoogle通信簿に高評価つけてもらいましょ、という考え方がSEOである。造りを最適化していないサイトの中では渡辺篤史さんが迷子になったり階段から転げ落ちたり吹き抜けを褒めようとしたら屋根がなかったりするので、そうなるとさすがの渡辺篤史さんも「この家やべぇ」と収録を早めに切り上げ二度と探訪してくれなくなってしまいそのサイトは下へ下へ埋もれてしまうのでSEOとは基本的な、尊重すべき芯の考え方なのだ。
しかし彼らには通じなかった。
「SEOをやっても意味ない」という言葉は本来、
「ウチにどれくらいの価値があるか一級建築士に建物評価してもらったわ。違法建築やけど」
と同じくらいのトンデモ発言である。きっと住む星が違うのだろう。私は彼らと関わることをやめていたため何も助言せず訂正せずそのまま泳がせることにした。泳ぎ、すくすくと育ち、丸々肥え太った彼らがいつか御社に大型新人としてやってくるかもしれないがその時はどうかひとつよろしくお願いします。グータラクローラーとして。
この世に楽なもんはない
ネットを見ているとパッとやってパッと儲けられるようなやり方や商材が溢れているがどれも実際にやるとなれば設備もいるし時間も技術も根気もいる。楽なもんなんて無いんだけどなぜかネットには楽でおいしいものがあると見られがち。さらにAIの進化により基礎を理解せずとも完成品に近いものを作れちゃうようになったからより、基礎の意義は彼らには見えないほど薄くなってしまった。
基礎はめんどくさい。できればやりたくない。しかも今の時代AIがやってくれるんだからそっちの方がラクじゃんと思いがちだがちょっと待ってほしい。
"怠惰を求めて勤勉に行き着く"という言葉もある。
ラクしたいんだったら余計に基礎を学ぶべし。その上で最新テクノロジーを効率良く使いこなして便利な仕組みを作った方がはるかにラク。これはプログラムに限らず全てに言えることで、基礎とは人生を正しい方向に導いてくれる方位磁針なのである。だからめんどうだけど基礎頑張ろうね。あなたも私もお互いね。
え?基礎基礎うるせぇなあって?
そう言ってAI使ってめんどうな部分を全部スッ飛ばしてたクラスメイトが商材屋にお金払ってました。
それを無料でやれる技術を訓練校で教わってたはずなのにねぇ…