それでも生きるあなたへ

洞窟きのこ園閉園のお知らせと猿の置物

さようなら出会い系サイト

メリコミさんとの激闘を終え満身創痍だった我が身も癒え、いよいよ残りのポイントを使い切り出会い系サイトに別れを告げる時が来た。もうこれ以上箱の中身はなんでしょねみたいな胃が痛くなる出会いは不要だ。そっとスマホを地面に置き、普通のおじさんとして生きていくことをお天道様に誓いたい。私はサファリツアーに出かけたいのではない、人間に出会いたいのだ。お金も時間ももったいない出会い系サイトに決別すべく、最後のポイントを弾倉に込めた。

その者、丘上より軍勢を指揮するかの如し

「女性の顔出しコーナー」的なものがある。個人情報保護が叫ばれるこの時代に顔出しOKの剛の者達の御尊顔を新規登録順に閲覧できる。そこを毎日チェックしコイツまたいるなとか、コイツ業者丸出しだなとか、コイツよく顔出したなむしろ隠せよとか様々な感想を抱きながら男性陣はターゲットを物色するのである。毎日代わり映えしない顔ばかり見ているもんだから、えらいもんでご新規さんが入ると(見たことない顔だ!)とすぐにわかる。出会い系サイトの「ご新規さん」は狙い目で、ずーっとサイトにいる常連さんはその…なんというか紳士として女性に対し言葉を選んで言うなら「特殊な容姿の人」や「特殊な様子の人」であることが多く、他にも業者の可能性が高かったりと敬遠要素が多いなかご新規さんは本当に出会いを求めてふらふらっとやってきたよという人もいるのでまともなやり取りができる可能性が高い。まぁそれでおばあちゃんダイソンメリコミさんと会った俺が言っても説得力に欠けるのだけど、その他やり取りをした女性達も割と普通の人が多かったのでこの説は間違っていないと思う。そんな流れでいつものように顔出しコーナーを覗いたら一目でご新規さんとわかる顔が飛び込んできた。基本的にみんな顔を半分隠してポーズをとっていたり、顔の中で自信がある部分のアップだったりするのだがその女性はどこかの見晴らしの良い高台で笑顔いっぱいに遠くを指さしているプライバシー上等な顔出し、というか堂々たる上半身全写り画像を公開していた。毎日あのコーナーを閲覧していると街で偶然顔出し常連さんを見た時に(あ!出会い系サイトの女だ!)と一発でわかるのに大丈夫なのだろうか?ちょっと頭が弱い子なのだろうか?ひとまず彼女のことを「モロ出しさん」と呼ぶことに決めた。しかし家も歳も近くお酒が好きということなのでちょうど良いやとメッセージを送ることにした。今度飲みに行きませんかと。ポイントもやる気もなかったので直球勝負でさようならのつもりで。

失った友の大きさ

これでやっと出会い系サイトとおさらばできる。さて明日から何を糧に生きようか。でも人間というものは不思議なもので「さぁ楽しいことやっていいよ!」と言われても意外と出てこなかったりする。特に俺みたいに長いこと不慣れな抑制生活を送っていた者はとうの昔に趣味の翼を失っているので何をやろうにも今からイチから準備・勉強せねばならないし掛かる時間やお金を考えるとそれだけでしんどくなってしまう。趣味とは長い時間をかけて付き合ってきた親友のようなものだと知る。都合の良い時だけ引っ張り出そうとしてもそうはいかないのだ。一度切れた糸は簡単には元に戻らない。そんな大切な気づきがあったのは良いが、てことは余計先行きが暗くなった。どうすんのよこれから。むしろそこに気付かない方が幸せだったんじゃないかと思った時にスマホが鳴った。

「いいですよ。お酒好きなので是非飲みに行きましょう」

モロ出しさんからだった。

出会い系サイトよ、もはや次のメールがわれらの最後の別れとなるだろう。

あんな直球勝負で返事来ると思ってなかったのでこの子危機管理とか大丈夫かと思ったがポイントももう無いので「ありがとう。でももうポイント無いので直接LINEください」とメールした。直球の次は業務連絡かその素っ気なさと思ったに違いない。どの道これで出会い系サイト終了なので返事が来ても来なくてもどっちでもよかった。ていうかこんな不躾なメッセージに返事する女はいないだろう。しかも直接LINEで。と思ったら直接LINEで返事来た。「よろしくお願いします」と。キミいろいろ大丈夫?驚きを隠せなかったが家や歳が近いのと、なにより一緒に楽しくお酒を飲める人を探していたということで返事をくれたのだそう。こちらのニーズとも完全に一致していたので早速飲みに行き、でも次はどんな妖怪かと油断はせずいつでも十字架とニンニクを投げつける準備はしていたが全然普通の人で、それからも飲みに行ったり遊びに行ったりして楽しく過ごしている。それが今の彼女です。まぁこの歳で「彼女」というのも痛い響きなので「俺のおなご」と呼んでいるが、最後の最後、出会い系サイトに決別しようとした時にこんな出会いがあるなんて人生何が起きるか本当にわからないものだと空を見上げた。

ハードルが高かった出会い系サイト、まずは諦めず頑張ってみて良かった。暗中模索で不安だらけだったが世の中やってみなきゃわかんないことだらけだし、あの日かえるに励まされ「畜生!人生変えてやる!!」と部屋を飛び出さなければ今日のような幸せな日々はなかっただろう。もちろんそれは彼女がいるというひとつの理由ではなく、そこから少しずつ取り戻してきた自分本来の感覚や楽しみ、自分らしく生きることの喜びを積み重ねてきたからこそ。今ようやく「昔の俺でも楽しんでるな、今の人生」と思える地点に戻ってきた。妻に不倫されたり子供と別れたりおばあちゃんにネットビジネス勧められたりダイソンに焼肉吸い込まれたりメリコミさんを討伐したりいろいろあって落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。

だから心から願う、

これからあなたが選択するチャレンジにどうか良い出会いが待っていますように。そしてガッツポーズした青空に、安西先生が親指を立ててウインクしていますように。